狂気に見える、普通に見える

コンビニ人間 私を連れて逃げて、お願い。1<私を連れて逃げて、お願い。> (ビームコミックス) 死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々 1 (少年チャンピオンコミックス・タップ!) 愛の渦 [DVD] 恋の渦 [DVD] 弟の夫 : 1 (アクションコミックス)

 

小学校の高学年の頃、国語の副読本で芥川賞直木賞の受賞者一覧を眺めて興奮した覚えがあります。それ以来、芥川賞受賞作品と言われれば、背伸びして手に取った中学生、世界が広がった高校生、物語の中の世界に生きているような人も実在することを知った大学生の頃を経てきました。いつの間にかそんな読書から離れていたけれど、久しぶりに気になった『コンビニ人間』、とても面白かったです。外の世界に刻まれるリズムが自分を人間にしてくれると感じる瞬間が私にもあります。

興味深いのは、私の周りに限ってですが、『コンビニ人間』のコンビニ就労の姿に自らを重ねる女子学生が多いという点です。コンビニに類する場に刻まれるリズムを知っているか否かで、この作品の感想は大きく変わりそうな気がします。私にとってはそのリズムを保つ静かな狂気がこの作品の一番の旨味(『私を連れて逃げて、お願い』にも感じた覚えがあります)に感じられましたが、それを普通のものとして味わうと、はたして。

 

小学生、中学生くらいの頃を思い出すと、ただ嬉しいとか悲しいとか、それだけではない、手持ちの語彙では言い表せないような感情にしょっちゅう出会っていたなあ、と思います。友人とのコミュニケーションで感じる些細な違和感や、毎年お世話になる焼き芋屋さんの後ろ姿を見送る時の微かな胸の痛みみたいなものは、働き始めてから、意識的に目を瞑るようになってきて、そしていつしか存在を忘れてしまいそうになります。そんな気持ちを今描けることに尊敬を覚える『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』。

 

狂気を楽しみに観た「愛の渦」は、あれ、なんか想像とちょっと違うな…と思っていたら、ラストが良かったです。あのラストにならなければ、ただそれっぽい、大学二年生くらいの男の子たちが罹る麻疹みたいなものになっていただろうな。対して、全く気にせず観た「恋の渦」はとにかく最高、特に冒頭のフツーっぽい喋りには恍惚としてしまうほどでした。一時の恋にずっと溺れていられたらどんなに楽なことか、けれど続いちゃうんだな日々は。とにかく、毎日を過ごすというのはそれだけで大変です。

飴玉を舐めるように大切に読み進める『弟の夫』、読んでからしばらくは日々を落ち着いたトーンで過ごせて幸せです。